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第1話 猫のリーサルウエポン

それは、初夏のとても天気が良い最高の引っ越し日和だった。

都内にある少し込み入った住宅地に着いたのは、朝もやが少し消えかけた頃だった。

日曜日の朝は渋滞もなく、1時間以上も早く着いてしまうのはよくあることだ。

 

予約の時間になり、携帯電話で「お迎えに上がりました」の連絡すると、すぐに飼い主さんが現れた。

「おはようございます。今、猫を捕まえてきます。キャリーお借りしますね」飼い主さんは、そう言って小キャリーを持って玄関に入っていった。

私が、車の後ろのドアを開け準備をして待っていると、「ギャー」という猫の声とともに、「おとなしく入りなさい」という飼い主さんの声。

もう、大変な騒ぎになっているのは、見なくても容易に想像がつく。

 

しばらくして、2匹が一緒に詰まったキャリーを重そうに持った飼い主さんが現れた。

「確か、ご近所に内緒だと伺っていたのですが・・・」そのために、車のロゴもはずして来ている。

飼い主さんは、猫による引っかき傷をさすりながら「でも、しょうがないですね」全身毛だらけで、もうそれどころではないといった感じだ。

 

「さて、この後どうしましょうか?」その当時は中キャリーケージが無かったので、もう入れるものがない。(現在は、中キャリーケージも搭載しています。)

「まず、このキャリーに入っている2匹を車の大ケージに移します」そう言いながら、飼い主さんは大ケージにキャリーを入れ、猫を出そうとするが一向に出てくれない。

「しかたがないので、このまま、あと2匹捕まえてきますから」そう言って、今度は裏口から庭に入っていった。

 

「あっ、そっちに行った」、「待ちなさい」、「ギャー」庭から猫を抱えて出てきた飼い主さんは、さっきより傷が増えている。

その猫を、大ケージに放り込んで「あと1匹ですから」と再び戦場へ。

何かが倒れる音、物が割れる音、猫と人間の悲鳴、見なくてもそこは修羅場と化しているのがよくわかる。

 

しかし、しばらくすると静かになり、大きな猫を羽交い絞めした飼い主さんが出てきた。

薄手のセーターには、猫の抜けた爪がいくつも付いている。

しかも、あちらこちらから血が出て、もうボロボロ。

そして、車に近づき私と猫の視線が合った瞬間、猫は最終兵器のスイッチを押したのだった。

 

シャーという音とともに地面に向かって噴射される大量の「オシッコ」は、飼い主さんの足をかすめ、アスファルトに見事な水しぶきを巻き上げた。

猫のリーサルウエポン

初夏の昼下がり、ネコちゃん達は大合唱しながら三浦半島の新居に向けて出発した。

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